契約書の電子化は4種類!どの電子化が必要か判断できるチャート付き
公開日:2024/12/18
「社内で契約書の電子化をしたい」「電子化を進めるように上から言われた」といった場合には、まず自社で実現したい「電子化」とはどの状態を言っているかをイメージすることが必要です。
電子化というのがあいまいな言葉なので、契約書の電子化といっても以下のように異なる4つの種類があるからです。
どの電子化を目指すかによって、使うツールや導入するシステムが異なってきます。また、以下のような「契約書を電子化するメリット」についても、どの電子化をするかによって得られる恩恵の大きさが異なってきます。
この記事では、なんとなく「契約書を電子化したい」と考えている企業に向けて、どのような電子化方法があるのかや注意点、自社が実現したい内容に沿った電子化の方法を解説していきます。
上記画像のように、実現したい内容によって適切な電子化方法が異なります。この記事でわかりやすく解説していくので、ぜひ自社で行いたいことが何かをイメージしながら読み進めていってください。
1. 契約書の電子化とは?4パターンごとの方法を解説
契約書の電子化とは、契約書を電子的なものに変えることをいいます。ただし、人によって「電子化」でイメージする内容が異なり、文脈によっても「契約書の電子化」の意味は異なるでしょう。
「契約書の電子化」=「電子契約」と考える人もいれば、紙の契約書をPDF化することを「契約書の電子化」と考える人もいるからです。
そのため、なんとなく「契約書を電子化したいなあ」と考えている方がいたら、まずは「どの電子化を自分は求めているのか」を具体的にイメージしていくことが大切です。
この記事では、電子契約だけでなく、紙の契約書のPDF化や、Wordなどで作成したファイルに電子サインを追加するものも含めて、広い意味での「契約書の電子化」について説明していきます。
この記事で解説する「契約書の電子化」は4つ
- 電子化1:紙の契約書をスキャンしてPDF化して電子保存する(紙を手軽に電子化できる)
- 電子化2:作成した契約書をPDFに変換して電子署名を付与する(簡易的な電子契約が可能)
- 電子化3:電子契約システムを導入してシステム上で契約を完結させる(契約業務を効率化できる)
- 電子化4:契約書管理システムを導入して全ての契約書を一元管理する(紙もデータもまとめて管理できる)
それぞれの方法について「自社ではどの電子化をすればいいか」については4章で詳しく説明していくので、まずはそれぞれの電子化とはどういうものか解説します。
1-1. 契約書の電子化1:紙の契約書をスキャンしてPDF化して電子保存する
契約書を電子化する方法の1つ目は、紙面で取り交わした契約書をスキャンしてPDFなどの電子データに変換し、そのデータを社内サーバーなどに保存する方法です。
紙の契約書をスキャンしてPDF化して電子保存するやり方
- 書面で取り交わした契約書(署名・捺印済み)をスキャナでスキャンする
- スキャンした契約書を、一旦デスクトップにPDFファイル形式で保存する
- ファイル名に相手先名を入れるなど変更して、社内サーバーやクラウドサーバーにファイルを移動させる
契約書の文面を作成した場合であっても、データをプリンタで印刷して紙面にした状態で、署名・捺印を行って契約を交わすケースは多いでしょう。
しかしながら、そのまま紙の状態で保管すると社内で情報共有しにくいなどの問題点があります。この場合、紙面をスキャンしてPDFデータにして共有サーバーに保存すれば、利便性が高まります。
保存する場所は社内サーバーが安全ですが、セキュリティ面に配慮した上で、クラウド上のサーバーに保存することもできます。
社内からだけでなくインターネット上で契約書データにアクセスできるようにすれば、出張先や外出先、テレワーク中でも契約書を確認でき、さらに利便性が向上します。
1-2. 契約書の電子化2:作成した契約書をPDFに変換して電子署名を付与する
契約書を電子化する2つ目の方法は、Wordなどで作成した契約書をPDFに変換して、Acrobatオンラインツール上で電子署名を付与するという方法です。
作成した契約書をPDFに変換して電子署名を押すやり方
- WordやExcelなどで契約書文面を作成して、PDFデータに変換する
- Acrobatオンラインツールの「PDFに電子署名を追加」を開き、PDFファイルをアップロードする
- ツール上で電子サインを作成して署名を行う
- ツールのメニューから「招待して電子サインを依頼」をクリックして、相手先にもサインを依頼する
※署名するには、あらかじめ認証機関からデジタルIDを取得しておく必要があります。
※Acrobatオンラインツールを利用するには、サービスへの無料登録が必要です。
Acrobatオンラインツールは無料で利用することができるため、有料の電子契約システムの導入をためらっている企業におすすめです。
1-3. 契約書の電子化3:電子契約システムを導入してシステム上で契約を行う
契約書を電子化する3番目の方法は、電子契約システムを導入してシステム上で契約を完結させる方法です。システム導入費用はかかりますが、契約業務を一気通貫で行えるため作業効率は大幅に向上することが期待できます。
電子契約システムを導入してシステム上で契約を行うやり方
- 電子契約システムを導入して初期設定を済ませる
- 作成した契約書を電子契約システムにアップロードして、相手先にシステム上で確認依頼を送る
- 契約先の相手にメールが届き、相手先が確認して同意ボタンをクリックすると契約が締結される
※相手先(メールの受信者)がアカウント作成不要で契約締結ができるタイプと、アカウント作成が必須のタイプが両方あります。
電子契約システムでは、システム内で相手先への確認依頼や契約締結の進捗確認ができるため、契約業務が多い企業にとっては業務効率化が進む便利なツールといえるでしょう。
1-4. 電子化方法4:契約書管理システムを導入して全ての契約書を一元管理する
契約書を電子化する方法の4つ目は、契約書管理システムで全ての契約書を一元管理する方法です。
紙の契約書を電子化して保存するだけでなく、電子的に締結した契約書も全て一箇所のシステム内に集約して管理します。契約書をまとめて管理し、内容を検索することもできるため、見つけたい契約書の所在をすぐに探し出せます。
- 契約書管理システムを導入して初期設定を済ませる
- 紙の契約書はスキャンしてデータ化しておき、電子的に締結したデータファイルとともにシステムにアップロードする
- AI搭載の契約書管理システムならば自動で項目などを取得・登録してくれるため、アップロードするだけで作業が完了する
書面で締結した契約書はキャビネット棚に保管されており、電子契約した契約書は電子契約システムにあるなど、保管場所がバラバラになっていると、契約書を探す時に「どこにあるんだっけ」とすぐに探し出せないことがあります。
契約書管理システムで一元管理することで、契約書を探す時間を削減できたり、労務部が各部署からの問い合わせに対応する時間を削減できたりするメリットがあります。
2. 契約書を電子化するメリット
契約書の電子化には4つの種類があることを理解したところで、契約書を電子化することでどのようなメリットがあるのかについて解説していきます。
この記事をお読みいただいている方は、何かしら電子化にメリットを感じてこの記事にたどり着いたと思います。既に認識されているメリットもあるかもしれませんが、あらためて網羅的に説明していきます。
- 管理しやすくなるのが最大のメリット
- 検索しやすくなる
- 保管スペースやコストがかからない
- アクセス制限やバックアップ保存などセキュリティ面でも安心
- 更新時期の管理がしやすくなる
なお、一概に「電子化」といっても1章で説明した通りいろいろな段階の電子化があるため、4つの方法ごとにメリットをどれだけ享受できるかを◯△✕で示しました。
【契約書を電子化する5つのメリット】
▼5つのメリット |
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
---|---|---|---|---|
管理しやすくなる |
△ |
△ |
◯ |
◯ |
検索しやすくなる |
△ |
△ |
◯ |
◯ |
保管スペースやコストがかからない |
✕ |
◯ |
◯ |
|
セキュリティ面でも安心 |
△ |
△ |
◯ |
◯ |
更新時期の管理がしやすくなる |
△ |
△ |
◯ |
◎ |
それぞれのメリットについて詳しく理解していきましょう。
2-1. 契約書を電子化するメリット:管理しやすくなるのが最大のメリット
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
△ |
△ |
◯ |
◯ |
契約書を電子化する最大のメリットは、管理しやすくなるという点にあるでしょう。
契約書が紙の原本のままだと、紛失した時に所在が一切分からなくなってしまいますし、原本が汚れたり敗れたりすることもありえます。電子化することにより紛失や汚損・破損のリスクが低くなり、管理しやすくなります。
また、紙の契約書を担当者が保管していたり、部署ごとに保管場所が分かれていたりすると、やはり管理が難しくなります。電子化して社内サーバーや契約書管理システムの中など、一箇所に契約書が集約されていることで、管理がしやすくなるでしょう。
2-2. 契約書を電子化するメリット:検索しやすくなる
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
---|---|---|---|
△ |
△ |
◯ |
◯ |
契約書を後から検索しやすくなるのも、契約書を電子化するメリットです。
紙の契約書のまま棚に収納したり各自が保管したりしている場合、目的の契約書を探し出すのに時間がかかってしまう可能性が高いです。万が一、間違った場所に置いてしまっていた場合には、契約書を探すだけで一日が潰れてしまうこともあるかもしれません。
契約書を電子化する際にファイル名に社名や日付を入れておけば、後で探すときにも「ファイル検索」ですぐに見つけることができます。また、契約書をAI-OCR機能で全文テキストデータ化しておけば、さらに検索性が向上します。
2-3. 契約書を電子化するメリット:保管スペースやコストがかからない
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
---|---|---|---|
✕ |
◯ |
◯ |
ー |
契約書を電子化する3つ目のメリットは、紙の契約書では必要な「保管スペース」の確保や「コスト」がかからなくなることがあります。
紙の契約書を紙のまま保存しておく場合、キャビネットや倉庫など、契約書を保管しておく物理的なスペースを確保する必要があります。会社法では10年、税務関係の法律では7年の保管が義務付けられているため、企業によってはかなり広い保管場所の確保が必要となるでしょう。
契約書を電子化することにより、そうした保管スペースが不要となり、別の用途として有効利用できるようになります。
また、紙の契約書を締結する場合には、印紙代や紙代、インク代、封筒代、相手先に送る郵送費などさまざまなコストがかかります。紙の契約書を印刷して封筒に入れて糊付けをしてポストに投函するという工程を考えると、人件費もかかります。
契約そのものを電子化すれば、上記で挙げたコストが不要となります。契約締結時に貼付する必要がある印紙も、電子的に契約する場合には不要となります。
2-4. 契約書を電子化するメリット:アクセス制限やバックアップ保存などセキュリティ面でも安心
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
△ |
△ |
◯ |
◯ |
セキュリティ面が考慮された仕組みで電子化した場合に限られますが、電子化することでセキュリティ面での強化も実現することができます。
紙の契約書を保管している場合、キャビネットに鍵を付けるような物理的な対策はできる一方、契約書一通一通に対してのアクセス制限をかけることは困難です。
細かいアクセス制限や閲覧履歴の保存などができる仕組みで契約書を電子化すれば、必要な人しか契約書を閲覧できない環境を実現でき、個人情報流出のリスクも軽減できます。
さらに、複数のデータセンターでデータを保管しているクラウドサービスを使えば、バックアップ体制も万全で、契約書を紛失してしまうリスクもなくなります。
2-5. 契約書を電子化するメリット:更新時期の管理がしやすくなる
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
△ |
△ |
◯ |
◎ |
契約書を電子化するメリットとして、更新時期の管理がしやすくなる点もあります。
紙の契約書をそのままファイリングしている場合には、契約期間や更新日時を確認したい場合には保管場所に行って1枚1枚を確認するしかありません。
電子契約システムや契約書管理システムなどで契約書を電子化する方法ならば、契約期間や更新日時などを後から検索して絞り込むことが可能です。
システムによっては、契約終了や更新期日が近い契約について、システム内の通知や電子メールで知らせてくれる機能を持っているものもあります。
更新時期の管理ができれば業務効率化につながりますし、契約更新漏れで顧客や取引先とトラブルになるリスクも防げます。
3. 契約書を電子化する場合のデメリット・注意点
前章ではメリットをお伝えしたので、ここからは契約書を電子化する場合のデメリット・注意点についても解説していきましょう。
何事にも良い面と悪い面がありますので、事前にデメリットや注意すべき点を知っておくことは非常に重要です。
契約書を電子化する場合のデメリット・注意点
- 契約書を電子保存する場合には「電子帳簿保存法」に準拠する必要がある
- 契約書を電子化する方法によっては導入費用と月額費用がかかる
- 電子的に契約する方法に抵抗のある取引先も多い
- 電子契約ができない契約書の類型も存在する
- 契約書を電子化する場合の社内ルールを整備・徹底する必要がある
電子化を進めて「こんなつもりじゃなかった」と後悔しないためにも、かならず目を通しておいてください。
3-1. 契約書を電子保存する場合には「電子帳簿保存法」に準拠する必要がある
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
スキャンした契約書を原本として扱う場合は、「スキャナ保存」の要件を満たして保存する必要がある |
「電子帳簿等保存」と「電子取引データ保存」の要件を満たして保存する必要がある |
「電子帳簿等保存」と「電子取引データ保存」の要件を満たして保存する必要がある |
「電子取引データ保存」の要件を満たして保存する必要がある |
契約書を電子化して電子的に保存する場合には、「電子帳簿保存法」という法律で定められた保存要件に基づいて保存しなければなりません。そのため、場合によっては法律に準拠するための対応が必要となるケースがあります。
「電子帳簿保存法」とは、個人事業主を含む事業者が対象となる法律で、電子的に作成した帳簿・書類(区分1)やスキャンして電子化した書類(区分2)、電子的に授受した取引データ(区分3)を保存する場合に、定められた要件を満たす必要があります。
出典:「電子帳簿保存法が改正されました」(国税庁)を加工して作成
を加工して作成紙の契約書をスキャンして電子化する場合で、電子化したデータを原本とする場合(紙を破棄する場合)には、電子帳簿保存法の「スキャナ保存」という区分の要件を満たした形で保存する必要があります。具体的には、スキャンする場合の解像度・色調の指定や、タイムスタンプを付与すること、スキャンする時期の制限などが決められています。
また、Wordやシステムなどコンピューターで作成した契約書を電子保存する場合には「電子帳簿等保存(区分1)の要件を、電子的に契約書を授受した場合には「電子取引データ保存(区分3)の要件を満たす必要があります。
具体的な要件としては、タイムスタンプを付与する(または訂正・削除の履歴が残るシステムで授受する)ことや、取引年月日・取引金額・取引先名で検索できるようにしておくなど、複数の決まり事が定められています。
電子帳簿保存法については要件が複雑でここには書ききれないため、別記事「【わかりやすく解説】電子帳簿保存法の要件・対応方法|2024年版」をぜひ参照なさってください。
電子帳簿保存法に簡単かつスムーズに対応したい場合には、電子帳簿保存法に対応したシステムを導入することをおすすめします。
3-2. 契約書を電子化する方法によっては導入費用と月額費用がかかる
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
タイムスタンプ費用として 初期費用:数千円〜30万円程度 ランニングコスト:1件あたり10円前後 |
初期費用:なし ランニングコスト:なし |
初期費用:0円〜5万円程度 ランニングコスト:月額5千円〜2万円程度 その他オプション費用がかかる場合あり |
初期費用:0円〜30万円程度 ランニングコスト:月額1万円〜6万円程度 |
契約書を電子化する方法によっては、導入費用と月額費用がかかる点に注意が必要です。
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する場合、スキャナがあれば導入費用はかかりません。しかしながら、電子帳簿保存法に準拠するためにタイムスタンプサービスを利用する必要があるため、その費用がかかります。
また、システムを導入する場合には、当然ながらシステムを導入するための初期費用と月額費用がかかります。
先ほど解説した契約書を電子化することによりメリットと費用を比較して、費用対効果の高さを感じる場合に導入を決めると良いでしょう。
3-3. 電子的に契約する方法に抵抗のある取引先も多い
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
---|---|---|---|
ー(※) |
取引先の理解を得る 必要がある |
取引先の理解を得る 必要がある |
ー(※) |
※「方法1:紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する」と「方法4:契約書管理システムで一元管理する」に関しては、契約自体は別で行うため、このデメリットは該当しません。
契約書を電子化する上での注意点として、「電子的に契約する方法に対して抵抗のある取引先も多い」という点についても説明しておきます。
特に古い体質が残る業界の場合や、契約締結する相手よりも自社の立場が低い場合、電子的な契約締結を進めたくてもなかなか進められないケースが多くあります。
契約締結する相手から「やっぱり契約書は書面で行いたい」と言われてしまうと、なかなか拒絶するのは難しいでしょう。
このような場合もあるため、契約書を電子化する仕組みを導入するとしても、一部は書面を原本とする契約書が残ってしまうケースが多いことを理解しておきましょう。
3-4. 電子契約ができない契約書の類型も存在する
紙の契約書をスキャンしてサーバに保存する
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
---|---|---|---|
ー(※) |
取引先の理解を得る 必要がある |
取引先の理解を得る 必要がある |
ー(※) |
※「方法1:紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する」と「方法4:契約書管理システムで一元管理する」に関しては、契約自体は別で行うため、このデメリットは該当しません。
3-3のケースの他に、法令によっては電子契約ができない契約書の類型も存在するので理解しておきましょう。
「電子署名法」が2001年に施行されて以降、さまざまな契約書について電子契約での締結が可能になりましたが、以下の契約書については現在でも電子契約が不可となっています。
電子契約ができない契約書
- 事業用定期借地契約
- 企業担保権の設定又は変更を目的とする契約
- 任意後見契約書
※2024年時点の情報です。
電子契約できない理由としては、公正証書によって契約を締結すべきことが法律で定められているからです。ただし、将来的にはこれらの契約書も電子契約が認められる可能性はあります。
また、電子契約にできるものの、相手方の承諾・希望・請求が必須となる契約書というのも存在します。例えば、事業者が交付する申込書面や建設工事の請負契約書、宅地建物の売買・交換の媒介契約書などが主な契約書の例です。
これらは相手方の承諾が必要となるため、十分に電子化についての説明をした上で電子化を進めていく必要があります。
3-5. 契約書を電子化する場合の社内ルールを整備・徹底する必要がある
紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する |
PDFに電子署名を付与して契約する |
電子契約システムで契約を完結する |
契約書管理システムで一元管理する |
---|---|---|---|
電子帳簿保存法に準拠するためのルールを徹底する必要がある |
電子帳簿保存法に準拠するためのルールを徹底する必要がある |
スムーズな承認ワークフローを整備する必要がある |
ー(※) |
※「方法4:契約書管理システムで一元管理する」に関しては、電子帳簿保存法に対応したシステムを使えばルールの整備などはそれほど必要にならないケースが多いと考えられます。
契約書を電子化する場合のデメリット・注意点として最後に紹介するのは、電子化する場合の社内ルールの整備・徹底について調整が必要になるという点です。
例えば「紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する」場合や「PDFに電子署名を付与して契約する」場合については、電子帳簿保存法の要件を満たすために以下を定めて徹底する必要があるでしょう。
電子帳簿保存法の要件を満たすために徹底すべきルールなど
- タイムスタンプや電子署名を付与する期日を全社で遵守する
- 検索要件を満たすためのルールを作る(例えば、ファイル名に取引年月日・取引金額・取引先名を必ず入れて保存するなど)
- 契約書の内容を訂正する場合のルールを徹底する(法律に基づいて、訂正・削除申請書の提出などが必要になるケースがある)
また、電子契約システムを導入する場合には、契約書締結までの流れをスムーズに行うために業務フローの見直しをする必要が出てくるケースがほとんどです。システムの使い方を従業員に周知する機会を設ける必要もあるでしょう。
どの電子化方法を選択するかによって、導入後にすべきことも変わってくるため、事前にそのあたりも検討しておくことをおすすめします。
4. 契約書をどのパターンで電子化するか検討してみよう
ここまで解説した内容を踏まえた上で、契約書をどのパターンで電子化するかを具体的に検討していきましょう。
自社で実現したいのは「どの電子化」で、それに対するおすすめの方法が何か具体的にイメージしてみてください。
4-1. 手軽に電子化したいなら「紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する方法」がおすすめ
今回紹介した4つの電子化方法のうち1つ目「紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する方法」は、手軽に契約書を電子化したい場合におすすめの方法です。
ただし、この方法で電子化したとしても、紙の契約書の原本も破棄せずに紙で保管しておくことをおすすめします。なぜならば、電子帳簿保存法に準拠する形で紙の契約書を電子化したとしても、訴訟など紛争があった場合に、紙で締結した契約書が「原本」として取り扱われる場面が存在するからです。
民事訴訟や民事裁判においても、紙の契約書で契約締結をした場合に「原本」とされるのは電子化したデータではなく、紙媒体の契約書の方となります。そのような場面で紙の契約書が存在しなければ、不利になってしまう可能性があります。
そのため、紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する方法で電子化する際には、紙の契約書も念のため原本として保管しておくと安心です。
つまり、この方法を選択する場合には、ファイル名などで検索しやすくなったり紛失・破損などを防いだりするメリットはある一方で、紙の保管スペースにかかわる経費削減のメリットは享受できないことになります。
4-2. 簡易的な電子契約なら「PDFに電子署名を付与して契約する方法」でも可能
大掛かりな電子契約システムは導入せずに無料で電子契約を行いたい場合には「PDFに電子署名を付与して契約する方法」も可能です。
ただし、無料で使えるAcrobatオンラインツールやMicrosoft Wordなどで電子署名を付与して契約する方法は、契約書としての法的拘束力は持ちますが、電子帳簿保存法には対応できない可能性が高いので注意しましょう。
Wordなどパソコンで作成した契約書を電子的に授受した場合には、電子帳簿保存法の区分1「電子帳簿等保存」と区分3「電子取引データ保存」の2つの区分の要件を満たさなければなりません。
しかしながら、区分3「電子取引データ保存」の真実性の要件は、無料のシステムだけでは満たせない可能性が高いのです。
「電子取引データ保存」の真実性の要件
以下の4つのいずれかの措置を行う必要がある
- タイムスタンプが付与されたデータを受領する
- データを授受した後、速やかにタイムスタンプを付与する
- 訂正・削除の履歴が残るシステム(または訂正・削除ができないシステム)でデータの授受および保存を行う
- 事務処理規程を作成して備え付け、そのルールを遵守する
例えばタイムスタンプを使って真実性の要件を満たすには、時刻認証業務認定事業者のタイムスタンプを押さなければなりません。また、無料のシステムでは訂正・削除の履歴が残らないことがあったり、無料で作成できる契約書の数に限りがあったりするため、電子帳簿保存法に完全に対応できると言い切れないのが実情です。
そのため、「4. 事務処理規程を作成して備え付け、そのルールを遵守する」の方法で対応しなければならず、規定作成や社内でのルールの徹底など余計な作業が必須となります。
さらに以下の「可視化の要件」も満たさなければならず、検索要件を満たすためにはPDFの名前に取引先年月日・取引先・取引金額を入れたり、別途Excel(エクセル)などで牽引簿を作成しておいたりという対応が求められます。
「電子取引データ保存」の可視性の要件
- 保存場所に、パソコンやディスプレイ、プリンタ、プログラムおよびそれらの操作マニュアルを備え付けて、整然かつ明瞭な状態で情報を速やかに出力できるようにしておくこと
- システムを使って保存する場合は、そのシステムの操作マニュアルを備え付けること
- 取引年月日・取引先・取引金額による検索ができる状態にしておくこと【前々年度の売上高が5,000万円以下かつダウンロード要件(※)を満たしている事業者は対応不要】
※ダウンロード要件とは、税務職員による質問検査権に基づく電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしていることをいいます。
説明が少し長くなりましたが、「PDFに電子署名を付与して契約する方法」では義務化された電子帳簿保存法への対応が少し面倒になるということです。
もしも業務を増やさずに電子化したい場合には、電子帳簿保存法に対応したシステム(訂正・削除の履歴が残るシステム)の導入も検討しましょう。特に、AI搭載で自動で項目を読み取ってくれて検索要件を簡単に満たせるようなシステムがおすすめです。
電子帳簿保存法の義務化についてさらに詳しく知りたい方は、「電帳法「電子取引データ保存」の要件・対応書類・対応方法を網羅解説」の記事も参考になさってください。
4-3. 契約そのものを効率化したいなら「電子契約システムで契約を完結する方法」がおすすめ
契約締結までのコストや手続きの時間を削減して契約そのものを効率化したい場合には、「電子契約システムで契約を完結する方法」がおすすめです。
以下に紙の契約と電子契約の流れの比較を記載しましたが、これをみると電子契約がいかに契約フローを効率化できるかが分かるでしょう。
紙の契約のフローと電子契約のフローを比較
紙の契約の場合:(1)契約合意→(2)印刷→(3)製本→(4)印紙貼付→(5)押印→(6)封入→(7)相手先に郵送→(8)相手先の方で印紙貼付→(9)押印→(10)封入→(11)返送→(12)自社で受取→(13)不備がないか確認→(14)ファイリング→(15)棚に保管
電子契約の場合:(1)契約合意→(2)PDFアップロード→(3)電子署名/自動で相手方にメールが送信される→(4)相手方が電子署名を行うと契約が成立→(5)システムに自動で内容が登録される
紙の契約で必要となる印刷・製本・印紙貼付・封入・郵送・ファイリングなどの工程が一切なくなるため、かなりフローが短縮されます。また、電子契約では印紙が不要となり印紙代が不要となりますし、郵送代や紙代、インク代、封筒代も削減できます。
さらに郵送にかかる日数も削減できるため、契約締結までの時間も短くすることが可能です。
このように契約そのものを効率化したい場合には「電子契約システムで契約を完結する方法」は効果が高い選択肢といえるでしょう。
ただしネックとなるのは電子契約システムを導入する費用がかかるという点です。また、商習慣や相手方との関係によっては電子契約が好まれないこともあるため、事前に相手方との調整が必要となる点がネックとしてあります。
4-4. 契約書を一元管理したいならば「契約書管理システムで一元管理する方法」がおすすめ
「契約書を電子化したい」の裏にある本音として「紙の契約書も電子契約も一元管理して、すぐに目当ての契約書にたどり着く状態にしたい」という場合には、「契約書管理システムで一元管理する方法」がおすすめです。
前述した通り、契約書管理システムでは、紙で締結した契約書も電子的に締結した契約書も全てシステム内に集約して管理することができます。中でもAI-OCR機能が付いているシステムはスキャンしてアップロードするだけで契約書の内容を読み取って登録できるため、簡単操作で全文検索が可能となり、見つけたい契約書の所在をすぐに探し出せます。
「契約書がどこにあるかわからなくなり、探すのに時間がかかっている」という企業は、ぜひ契約書管理システムに契約書を集約させて管理することをおすすめします。
5. AI搭載の契約書管理システム「OPTiM Contract」をぜひご検討ください
「契約書管理システムの導入を検討してみようかな」という方は、ぜひ当社のAI契約書管理システム「OPTiM Contract」をご検討ください。
「OPTiM Contract」は当社が開発した高機能なAIエンジンを搭載しており、アップロードした契約書の内容を読み取って自動で適切な項目に入力できるのが特徴です。契約書管理に特化しておりコンパクトな機能を低価格で提供しています。
社名や契約開始日、更新期限、取引金額など、契約書管理に必要な情報をAIが読み取って管理台帳に自動で記録してくれるため、時間がかかる契約書の手入力がスピードアップします。
さらに、過去の契約書を探したいときにもAIを活用した検索が可能で、「あいまいな情報でも契約書に辿りつける」と好評です。契約更新日が近づくとメールやシステム内の通知でアラートを受け取れるため、期日管理も漏れなく行えます。
「Adobe Sign」「クラウドサイン」「GMOサイン」「WAN Sign」「Docusign」の電子契約サービスとの連携も可能です。
無料でAI-OCRの精度や機能をお試しできる「無料トライアル」をご利用いただけるので、ぜひまずはお試しください。
まとめ
本記事では「契約書の電子化」について解説してきました。最後に、要点を簡単にまとめておきます。
▼契約書の電子化とは?4パターンごとの方法を解説
- 電子化1:紙の契約書をスキャンしてPDF化して電子保存する(紙を手軽に電子化できる)
- 電子化2:作成した契約書をPDFに変換して電子署名を付与する(簡易的な電子契約が可能)
- 電子化3:電子契約システムを導入してシステム上で契約を完結させる(契約業務を効率化できる)
- 電子化4:契約書管理システムを導入して全ての契約書を一元管理する(紙もデータもまとめて管理できる)
契約書を電子化するメリット
- 管理しやすくなるのが最大のメリット
- 検索しやすくなる
- 保管スペースやコストがかからない
- アクセス制限やバックアップ保存などセキュリティ面でも安心
- 更新時期の管理がしやすくなる
契約書を電子化する場合のデメリット・注意点
- 契約書を電子保存する場合には「電子帳簿保存法」に準拠する必要がある
- 契約書を電子化する方法によっては導入費用と月額費用がかかる
- 電子的に契約する方法に抵抗のある取引先も多い
- 電子契約ができない契約書の類型も存在する
- 契約書を電子化する場合の社内ルールを整備・徹底する必要がある
契約書をどのパターンで電子化するか検討してみよう
- 手軽に電子化したいなら「紙の契約書をスキャンしてサーバーに保存する方法」がおすすめ
- 簡易的な電子契約なら「PDFに電子署名を付与して契約する方法」でも可能
- 契約そのものを効率化したいなら「電子契約システムで契約を完結する方法」がおすすめ
- 契約書を一元管理したいならば「契約書管理システムで一元管理する方法」がおすすめ
契約書の電子化にもいろいろあるため、自社が何を実現したいのかをしっかり掘り下げて電子化の方法を決めていきましょう。