Staff Story
#02

農業×ITプロジェクト
楽しく、かっこよく、稼げる農業

高齢化、担い手の減少、所得の低下など数々の課題が山積する日本の農業界。こうした課題をAIやIoT、Robotを活用して解決へと導くのがオプティムが展開するスマート農業プロジェクトだ。スマート農業とはなにか、スマート農業によって日本の農業はどう変わるのか――同プロジェクトの中心を担った3人のキーパーソンへのインタビューを通じて浮き彫りにしていく。

スマート農業企画チーム 星野

スマート農業企画チーム 星野

企画担当として、農薬散布の実証実験や現場での栽培サポートなどを担当。

スマート農業企画チーム 休坂

スマート農業企画チーム 休坂

オプティムにおける農業×IT事業の事業責任者であり、当プロジェクトのリーダー。

スマート農業企画チーム 速水

スマート農業企画チーム 速水

主に営業として本プロジェクトに参画するパートナー開拓を担う。

CHAPTER 1

高齢化、担い手の減少、所得の低下。日本の農業が抱える社会的課題を解決へ導くプロジェクト

なぜ、農業分野へ参入しようと思ったのか。そのきっかけを教えてください。

速水:本プロジェクト発足のきっかけは、2015年6月、当社代表の菅谷が、母校である佐賀大学農学部の60周年イベントに参加したことが発端です。そこで菅谷が登壇してスピーチを行った際、AIを用いた画像解析技術や遠隔作業支援専用スマートグラスなど、オプティムのサービスや得意とする技術に農学部の先生方が非常に強い興味を示してくださり、「じゃあ、佐賀大学とオプティムで農業界が抱える課題解決に向けた取り組みを始めてみよう」ということになりました。

休坂:各種技術をどうやって農業に活かすか検討をして行く中で農業界は現在、新規就農者の減少という大きな課題が見えてきました。既存農家は高齢化が進み、後継者不足から耕作地を手放すケースも増えました。 新規の就農者は高齢農家から技術を伝承できず、時間をかけて試行錯誤しながらノウハウを習得しなければならないため、業界自体になかなか「夢」を抱けない状況に陥っています。 そうした状況に対して、本プロジェクトではAIやIoTといった技術を駆使して、技術やノウハウを継承しやすくするしくみを実現し、農業界を再活性化することを目的としています。 もちろん研究的な活動だけで終わるのではなく、この取り組みを通じて得た結果を社会に役立てたいと考えています。そこで佐賀県にも本プロジェクトに参加していただき、佐賀県、佐賀大学、オプティムの3者連携協定を締結させていただきました。それが2015年8月。菅谷が農学部60周年記念で講演を行ったのが同年6月ですから、わずか2ヶ月でプロジェクトが始動したことになります。


東京と佐賀の合同プロジェクトチームをわずか2ヶ月で発足。写真は、当社佐賀本店の農業チーム。

CHAPTER 2

ともにスマート農業を実現する“同士”が集うコミュニティ「スマート農業アライアンス」

本プロジェクトの概要についてお聞かせください

速水:本プロジェクトの基盤となるのが「オプティム・スマート農業アライアンス」です。これは、「AI・IoT・ビッグデータを活用して“楽しく、かっこよく、稼げる農業”」というコンセプトのもと、農家の方々はもちろん、企業や金融機関、自治体、大学など、スマート農業を共に実現する未来志向の“同士”が参画することによって実現されるコミュニティです。このプロジェクトの窓口となるものであり基盤となるものでもあります。

休坂:この「オプティム・スマート農業アライアンス」に参画した方々は、「スマートアグリフードプロジェクト」、「スマートデバイスプロジェクト」のいずれかに参加することができます。前者はAI・IoT・ドローンを利用することで「減農薬」「無農薬」を実現し、そこで高付加価値がついた農作物の生産、流通、販売を行うプロジェクト。具体的にはAIやドローンを活用した「ピンポイント農薬栽培技術」を用いて収穫された作物を当社が全量買い取り※1、「減農薬野菜」などの付加価値を付けて販売することで利益を創出するというものです。後者はスマート農業を実現するためのドローン、スマートグラス、スマートフォン、圃場に埋め込むフィールドセンサー、IoT農機具などの機器を活用し、生産者の農作業の負担軽減や技術伝承の問題を解決するプロジェクト。一言で言い表すならば、「スマートアグリフードプロジェクト」はスマート農業を通じた新たなビジネスモデルであり、「スマートデバイスプロジェクト」は生産者の方々がスマート農業を実践する上で必要となるサービスだと言えます。

CHAPTER 3

農家、企業、金融機関。さまざまな人々によるアライアンスがスマート農業を牽引する

どのようにして「オプティム・スマート農業アライアンス」に参画する人々を集めていったのですか?

速水:生産者の方々で言えば、比較的若い世代で、日常的にスマートフォンやタブレットといったスマートデバイスを用い、SNSをはじめとしたITサービスに慣れ親しんでいるような生産者をターゲットとしました。リスクは覚悟の上でこれまでとは違った手法を導入し、農業を変えていきたい――そんな未来志向の生産者に向け、スマート農業で生産者をサポートする、ITと農業の未来メディア「SMART AGRI(スマートアグリ)」を開設し、その中から「スマート農業アライアンス」への会員登録が行えるようにしました。

農家以外では、どんな人々が参画したのですか?

休坂:面白いところでは「地方銀行との協業」というものがあります。地銀は地域との結びつきが強く、地元の生産者、加工業者からの信頼は非常に厚いものがあります。そこで地銀に農家とオプティムの間に立ってもらうことにより、当社が営業を行うよりもはるかにスムースにサービスを提供することが可能になり、サービス利用におけるサポートなどもより手厚いものが行えるようになります。今後は日本全国の地銀との協業を進め、地域の農業従事者の方々にアプローチしていくつもりです。

CHAPTER 4

スマート農業のキーテクノロジー「ピンポイント農薬散布テクノロジー」

スマート農業を実践する上で「キー」となるのはどの部分でしょうか

星野:「ピンポイント農薬散布テクノロジー」ですね。これはドローンを用いて畑全体を撮影し、AIを使ってその画像を解析することで害虫の位置や分布を特定した上で、ピンポイントで農薬散布を行うテクノロジーです。例えば大豆畑を例にとりますと、従来は畑全体に農薬を散布することが当たり前だったのですが、この技術を用いることで必要な箇所のみへの散布が可能となり、農薬散布におけるコストを削減できます。2017年の夏の佐賀県農業生産法人株式会社イケマコとの共同実証実験では、88アールの大豆畑を2分割し、一方は通常の農薬散布による栽培、もう一方はピンポイント農薬散布栽培を実施したところ、農薬使用量を1/10以下に削減することができました。

速水:こうしたコスト削減はもちろん、農薬使用量を大幅に抑えられるので、「減農薬野菜」という新たな付加価値を生み出すことにもつながります。それが冒頭でお話した「スマートアグリフードプロジェクト」の「減農薬野菜」です。さらに害虫は大発生する年とそうでない年があり、「ピンポイント農薬散布テクノロジー」では、農薬を散布しなくても済む区画を明確に割り出せますから、そこから収穫した作物は「無農薬野菜」という付加価値が付きます。

休坂:この「ピンポイント農薬散布テクノロジー」を使って収穫された作物は、「スマートやさい」として販売されます。まずは皮切りとして、2017年12月に福岡三越様で「スマートえだまめ」の販売を行ったところ、大きな好評を博してすべてが完売。今後も「オプティム・スマート農業アライアンス」を通じて協賛企業と生産者を募り、作物の種類を増やしていくとともに販路拡大を進めていく予定です。

CHAPTER 5

前例のない取り組みだからこその苦労、その先にある人々の笑顔を思い浮かべて

プロジェクト進行上の苦労はありましたか?

休坂:新たな取り組みゆえ、どこにも前例と正解がない中で、突き当たる問題すべてにおいて自分たちの判断が迫られたことでしょうか。「ピンポイント農薬散布」と言っても、農薬を散布して結果が出るまでに1年かかる。そこで思うような結果が出なければ新たな試みを導入して再び苗植えからやり直さなければならない。かつ同時並行的にドローンの自動飛行や自動撮影、そしてAIによる画像解析技術なども開発していかないといけない。つまり農業技術開発とシステム開発を同時並行で進めて行く必要があり、この点において大いに苦労させられました。反面、前例のない取り組みであり、社会的な課題を解決へと導くと同時に、農業界に革命を起こすプロジェクトゆえ、非常に大きなやり甲斐を感じています。

星野:現在進行形の苦労なのですが、AIの精度向上に苦心しています。たとえば圃場のドローン空撮では、個々の圃場は土の色にバラつきがあったり、雑草の状態の違いといった具合に、圃場によって空撮で入手できる画像の条件が異なってきます。そうした違いを吸収するため、画像の撮影条件を細かく洗い出し、空撮の条件の統一化を行うことに苦労しています。現在では一定以上の精度が出ておりますが、ピンポイント農薬散布の実現のような劇的な結果は出てきてはいません。しかしそこで歩みを止めてしまってはこのプロジェクトも止まってしまいます。現状90の精度を100にするには、より多くの病変パターンの画像をAIにディープラーニングさせる必要があります。それを協賛農家や企業と連携の上、進めているところです。

速水:私は営業としてアライアンス開拓を担当しており、協賛企業と実証実験などを行う中で、ドローンを使った圃場の撮影に立ち会う機会が頻繁にあります。先日は帯広の580haという東京ドーム100個分以上の広大な農場を固定翼タイプのドローンで撮影したのですが、撮影データが数千枚にもおよび、非常に苦労させられました。さらにこの膨大な枚数の画像を見やすくするために数千枚の画像を並べて一枚の画像にする「オルソ画像」加工化し、データ解析をかけてといったことを繰り返しながら精度を上げていくので時間もかかります。しかし、この苦労の向こう側にある農家の笑顔を思うとそんな疲れなど吹き飛んでしまいますね。

CHAPTER 6

「ピンポイント農薬散布テクノロジー」があらたな市場を創出してゆく

最後に今後の展望についてお聞かせください

速水:農家や企業、自治体など協賛パートナーが日に日に増えており、日本のさまざまな地域で検証実験が進められています。今後は、そこから生まれた「スマート野菜」の販売に本格的に注力していくことになりますが、それにあたってもっと作物の種類を増やしていくことが重要だと考えています。現在、日本全国18都道府県で18品目のスマート農業を推進していますが、これをさらに拡充させるとともに、より効率的な流通の仕組みも確立し、日本のスーパーに並ぶ野菜すべてをスマート野菜にしていきたいです。

星野:これまではお米と大豆を主として「ピンポイント農薬散布テクノロジー」技術の追求を行ってきましたが、そこで一定の成果が得られつつあることで、今後は新たな品種の農作物栽培における「ピンポイント農薬散布テクノロジー」の可能性を探っていきたいと思っています。速水の言うように、すでに日本全国でさまざまな作物のスマート農業の取り組みが進められており、一例を挙げればキャベツ、ブロッコリー、じゃがいも、その他作物や、地域の特産品の栽培に「ピンポイント農薬散布テクノロジー」が使われています。あらたな品目への対応はもちろん、さまざまな害虫、病気などの農業被害対策含め、「ピンポイント農薬散布テクノロジー」がどんな貢献を果たせるのか、その可能性を追求していくつもりです。

休坂:この「ピンポイント農薬散布テクノロジー」で新たな市場を創っていきたいと思っています。日本でも昨今「食の安全」に対する意識の高まりにより、有機野菜への注目度が上がってきています。しかし欧米と比較すると、日本も含めたアジア圏の有機野菜市場は未成熟です。たとえば農林水産省が公表している「有機食品に係る市場調査」によりますと、日本はドイツと比較して、1人あたりの有機野菜の年間消費量がおよそ1/10※2程度しかありません。単純計算とはなりますがこの数字をベースに考えると、日本でも今後有機野菜のマーケットは1兆円規模まで成長する可能性もあるわけです。東アジア圏全体でみれば、もっと大きなマーケットになる可能性があります。 そうした潜在的な市場に対して「ピンポイント農薬散布テクノロジー」のような新しいテクノロジーを活用し、有機野菜の生産コストや精度の効率化を実現すれば、一気に市場形成が進む可能性があります。アメリカのように街中至るところにオーガニック専用スーパーがあり、誰もが安く手軽に有機野菜を手にすることができる。そういった未来をこのプロジェクトを通じて創っていきたいです。