蔦屋家電エンタープライズ
商品企画部 新規事業チームLeader
蔦屋家電+プロデューサー
木崎 大佑氏
- 導入のポイント
- モノの売り買いではなく、「場所」と「情報」を提供する店舗の新たなビジネスモデル
- 来店者の姿と行動から製品開発やマーケティングに有用なデータをAIで分析
- 個人情報に配慮し、データ管理を徹底した信頼性の高い情報の外部提供を実現
リアル店舗の新プラットフォームで注目のビジネスモデルを創造
蔦屋家電エンタープライズはTSUTAYA、蔦屋書店などの運営で知られるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の事業会社として、2018年4月に設立された会社だ。同社は2019年4月、蔦屋書店を中核とした生活提案型商業施設・二子玉川 蔦屋家電内に、インターネット時代の次世代型ショールーム「蔦屋家電+」(ツタヤカデンプラス)をオープンした。
蔦屋家電+はリアル店舗ではあるものの、従来店舗のように売り買いにフォーカスするのではなく、出展者(メーカー)に「場所」と「情報」という価値を提供し、対価としてテナント料を得るという新しいビジネスモデルの形態として注目されている。
蔦屋家電+立ち上げにプロデューサーとして奔走したのが、同社商品企画部で新規事業開発のリーダーを務める木崎大佑氏だ。会社設立後、木崎氏が初めて企画した新規事業が、蔦屋家電+である。ミッションは“リアルショップの新しいプラットフォームを創る”だった。
「目まぐるしい時代の変化に対応していくため、新しいことにチャレンジする事業エリアが必要でした。CCCはリアル店舗の運営が得意分野ですし、母体となる二子玉川 蔦屋家電もすでに営業を開始していたので、新たな切り口で店舗を作るベースは整っていました。ただ、当初からオープンの目安が2019年4月ということで進んでおり、準備期間は1年しかありませんでした」
木崎氏が新たなリアル店舗のプラットフォームを考える際に参考にしたのが、米シリコンバレーにある最新IoT製品のショールーム型店舗「b8ta」だ。同店では人工知能(AI)を使った画像解析データを出展者に提供している。「リアル店舗のデジタル化はどんどん進んでいきます。先行事例のいいところを取り入れ、日本の状況とうまくミックスする形で、リアル店舗の新プラットフォームづくりに挑戦してみたいという思いがありました」と木崎氏は振り返る。
消費者とメーカーを橋渡しする “メディア”としての役割
そして誕生した、蔦屋家電+。最新テクノロジーを駆使したユニークな家電製品を中心に、デザインや機能に凝った多彩なプロダクトを実際に触り、体験できる。各プロダクトには店舗スタッフが独自目線で紹介する文章が添えられている。来店者はその世界にじっくり触れるため、プロダクトあたりの滞在時間が総じて長いことも従来店舗と異なる大きな特徴といえる。
木崎氏いわく、蔦屋家電+が目指すのは、リアル店舗の“メディア化”だ。ネットショッピング全盛の時代だが、ネットでは消費者が商品に実際に触れることはできない。メーカー側も、消費者が商品を見てどのような反応を示すか、興味を持っているかどうかを把握することは難しい。それがリアル店舗なら、消費者からすれば商品を体感でき、メーカーは消費者のナマの意見や反応を役立てられる。それに加えて「消費者が商品の前にいる滞在時間は広告換算できると考えています。テレビCMと異なり、リアル店舗ならどのような人が商品を見ているかがわかるので、広告としての価値を追求できる。このビジネスモデルは有望だと感じました」と木崎氏は言う。
消費者のナマのデータを集め、メーカーに届けることで、大きな価値を生む。この新たなビジネスモデルを実現するにあたり、同社が選んだのが、カメラ画像をデータ分析で活用する「OPTiM AI Camera Enterprise」の小売業向けサービス「OPTiM AI Camera Enterprise for Retail」だ。
同サービスはオプティムのAI技術を駆使し、店舗内に設置したネットワークカメラで撮影した画像をAIで分析。来店者の性別・年代といった属性を割り出せるほか、消費者の行動パターンを分析し、商品の前にとどまる滞在時間をその商品への興味指数として捉える。メーカー側はダッシュボードに表示される各種データの数値を遠隔から確認でき、来店者の属性や商品に対する反応を手に取るように把握することが可能だ。蔦屋家電+は、これらの情報をメーカーにフィードバックすることでメーカーと消費者をつなぎ、製品開発やマーケティング、広告戦略などに役立ててもらうことを大きな狙いとする新たな形態のリアル店舗だといえる。こうしたコンセプトを採用したリアル店舗は、海外では前述のような例があるが、日本では初となる。
ベンチャースピリットを掛け合わせ システムを一緒に作り上げていった
なぜ、パートナーとしてオプティムを選んだのか。
「オプティムはベンチャー企業だけあって、多様な分野で面白いことにチャレンジしています。当社にとっても今回の案件は、ベンチャースピリットを持って臨む大きな挑戦。オプティムならフットワークが軽く、こちらの要望も柔軟に受け入れてくれるに違いない、だからオプティムと組むのがベストだと最初から考え、新しいシステムを一緒に作っていきましょうという姿勢でスタートしました」
導入企業が来店者の動きを画像解析し、自社ビジネスに活用するケースはこれまでにもある。実際、「OPTiM AI Camera Enterprise」は小売・飲食・商業施設ですでに活用されている。しかし今回の案件は、データの自社活用ではなく、蔦屋家電+に出展するメーカーに提供するという日本初のケースだ。扱うデータは顔や動きを含む個人情報であり、当然、外部提供に伴う問題に対応する必要性が生じる。
この問題を、どう解消したのだろうか。「OPTiM AI Camera Enterprise for Retail」では、カメラで撮影した画像から来店者の姿と動きを表す特徴的な中間データを瞬時に導き出し、元のカメラ画像はわずか0.3秒で破棄。さらに中間データを、個人を特定できない形で属性(性別・年代)・行動(滞在時間)データにリアルタイム変換し、出展者に提供する。この中間データもやはり0.3秒で破棄する仕組みで、個人を特定可能なデータは一切残されない。出展者はもちろん、蔦屋家電+のスタッフも誰一人、元画像や中間データを確認できないようになっている。
「こちらの要望に対して、オプティムは決してNoとは言いませんでした。こういう工夫をすれば、こういうことも可能かもしれないと、常に前向きの姿勢でディスカッションに臨んでくれたのが、本当にありがたかったです」と木崎氏は振り返る。新しいビジネスモデルを実現するシステムが、両社のタッグで作り上げられていった。
2018年春に動き始めたプロジェクト。両社の具体的なやり取りは夏に始まり、その年の暮れにはシステムが完成した。さらに数カ月をかけ、2019年4月のオープン直前まで実地検証を繰り返したという。
店内に設置されたカメラで来店者の属性および行動データを、
リアルタイムに個人を特定できないデータに変換・収集し、創り手にフィードバックする。
オープン2カ月で可能性を実感 今後の機能追加にも意欲を持つ
取材時点でオープンからまだ2カ月程度だったが、実際に効果は出ているのだろうか。木崎氏は次のように語る。
「出展者にとっては、どのような人がどれくらいの時間をかけて自社製品を見ているのかを把握できるため、自社運営のリアル店舗を遠隔から確認している感覚になるようです。各出展者が製品開発やマーケティングに具体的に活かしていくのはこれからでしょうが、オプティムと力を合わせて作り上げたこのプラットフォームに可能性があることは、2カ月で十分に実感できました」
ちなみに、店舗入り口には同システムについて説明するポスターを掲示している。木崎氏によれば、ポスターを見つけてもほとんどの来店者は気にせず、スタッフに質問する客もめったにいないのだという。
来店者のプライバシー保護に万全を期すため、店舗入り口に
カメラ画像・行動データの取り扱いについての案内を掲示。
今後の可能性についても、木崎氏は意欲的に語る。
「欲求はどんどん高まるものですから、出展者からはさらに細かな情報まで知りたいという声が寄せられています。蔦屋家電+は来店客に“売る”という意識で接することがないため、お客様は自由に見てくれるので、スタッフが話しかけると自由な意見を言ってくれます。こうした意見も、出展者にとって価値があるものでしょう。私個人としては、来店するお客様がみんな楽しそうなので、画像から笑顔指数や感動指数といったデータが読み取れるようになれば、システムの価値もさらに高まるのではないかと思います。この点は、これからのオプティムに期待したいですね」
- 所在地:
- 東京都世田谷区玉川1-14-1 二子玉川ライズ S.C.
テラスマーケット 二子玉川 蔦屋家電1F - 営業時間:
- 9時30分 ~ 21時00分
- URL:
- https://store.tsite.jp/tsutayaelectricsplus-futako/